才能こそ底上げすべき能力

サッカーにおける才能を紐解く【第一の才能】

サッカーが好きでたくさん練習するもレギュラーにはなれない
うちの子はセンスがない
成長に壁が来た

サッカーの向上性とは、練習による技術習得(外的要因)に依存するのではなく、個人の資質(内的要因)に高く比重があります。

その内的要因を紐解くことで子供達の成長に寄与することが可能です。

上記の悩みのある方は一読してください。

サッカーにおける才能を紐解く

ユルゲン・クリンスマンという往年の選手をご存知でしょうか。1990年代に活躍した元西ドイツ代表のストライカーです。

私は約20年前に、サッカーの指導者養成学校で1年間、主に技術習得に特化した指導方法を学びましたが、この時期にユルゲン・クリンスマン氏と共に汗を流す機会がありました。彼がちょう引退したとしだと記憶しています。

さて、このクリンスマンですが、足元のボールを扱う技術は子供達より低いレベルにありました。
一言で言うと下手くそでした。

しかし、彼が1V1の対決を行った時に、DFが一歩も動けずあっさりと抜かれてしまいました。
それは一瞬の出来事でした。

DFを抜き去るのに、フェイントなどで騙すことを必要とせず、一瞬で抜き去ったのです。

彼の現役時代は、スピードに定評がありましたが、仮にスピードで抜いたならDFは遅れをとってでもついていくことは出来ます。しかし、DFが全く反応出来ない状態だったため、スピードで抜いない事は一目瞭然でした。

足元の技術向上のためのサッカーの指導者養成学校で、技術を必要としない衝撃的なプレーを目の当たりにするとは思いもよりませんでした。

その時に、世界トップレベルの選手と一般の選手との間に、技術ではない何か大きく異なる要素があると思いました。

彼の動きに対して強く抱いた印象は、体のコアで動いているという点です。

この時に、足元の技術への懐疑と、得体の知れない動きへの関心が私の中に芽生えました。

テクニックへの懐疑

指導学校を卒業してすぐに現場で子供達の指導にあたりました。

個人の技術向上にフォーカスした指導で4年間指導しました。
その4年の間、子供達はそれぞれのレベルに応じてテクニックや技術を習得していきました。

確かに足元の技術は向上しました。しかし、とても大きな問題がありました。
初心者の子供達が、テクニックや技術を習得はしましたが、サッカーが全く上手くなりませんでした。

私の指導していた4年間、ほとんどの初心者の子供がです。

なぜここで初心者を対象に挙げたのかというと、経験者たちのほとんどはチームに所属していたりするので、成長がどこで発生しているのか不明なためです。

逆に初心者たちは、此方のスクールしか通っていないので成長の関与が測ることができるためです。

これは目を瞑ることのできない事実です。練習だけを見れば上達しているようにうつります。しかし、サッカーをやらせればど素人というわけです。
技術やテクニックの習得とサッカーの向上性は、直接的に相関関係にはないのです。

技術やテクニックを全否定するわけではありませんが、とても取り扱いに注意しなければいけない代物です。

上達とはどのようにして起こるのか

では、一体「サッカーの成長とはどのようして起こるのか」

そのためには、同じ環境内で、上達する子供とそうでない子供がいるのならば、その差を常にもたらしているものに目を当てなければ本当の上達の要因を知ることはできません。

その差を理解することは容易ではありませんが、そこにこそ本当の上達の鍵が隠されています。

上達を追求しない指導者や保護者などいません。
ですが、本当に上達が生じる背景や理由を理解している指導者や保護者がほとんどいないのが現状です。

成長とはどのように起こるのでしょうか。

才能との出会い

4年間お世話になったサッカー指導の会社を辞め、2004年に自身でサッカースクールを立ち上げました。
10名程度でのスタートです。

しばらくして、小学生2年生と幼稚園(年中)の兄弟が入会してくれました。
まだ、サッカーを本格的に初めていない2人でしたが、とてもセンスがあり、特に幼稚園生の弟は今までに見たことがない資質でした。

それは、技術やテクニックなどのような後天的に習得した技術ではなく、先天的な資質に対してです。
強烈なインパクトでした。

幼稚園生といえば、無駄な動きや、思うように体が動かせないといった未完成な点が必ずありますが、その幼稚園生は、サッカー選手としての身体の動きがその時点でほぼ完成していました。

彼のうまさは群を抜いていました。6年生でも敵いません。特に何も教えていませんし、テクニックもありません。なんで上手いのかというと、才能としか言いようがありません。

才能のある子供とは彼のことをいうのです。

才能のメカニズム

今まで約20年サッカーの指導をしてきて、彼ほどの才能の塊と言える選手に出会ったことはありませんでした。

彼は、現在(2019年現在)年代別の代表選手で活躍しています。

これをきっかけに、上達について考えるにあたって、才能というものについて考えてみるようになりました。

同じ環境内で質の違うプレーヤーが出るのは何故なのか。何も教えなくても上手くなる選手とそうでない選手では一体何が違うのだろう。才能と言われるメカニズムは何なのか。もしかして、サッカーの向上性とは、練習による技術習得(外的要因)に依存するのではなく、個人の資質(内的要因)に高く比重があるのではないか。

その内的要因を秘めているかどうかで、同じ環境下でも質の違うプレーヤーが生まれるのではないか。成長する子供には何か特別な「成長の種」を抱えているからなのではないかと仮説を立てました。

才能のある子供

幼少時代にどのような特徴を持った子供が、将来どのようになったのかを、長いスパンで総合的に検証しなければ、才能のある子供がどのような子かはわかりません。

以下に、幼少期の才能を3つ挙げますが、これは長いスパンで見てきた結果、幼少期に才能のある子供の特徴です。このいずれかが欠ければ途中で成長が止まります。

これは地域トレセン、県トレセンといったレベルの話ではありません。もっと壮大なレベルの話です。

1つ目の才能である幼少期のキック力

1つ目の才能は、幼少期のキック力です。

キック力とは筋力のことではありません。身体全体を使って、ボールに全体重をぶつける能力に優れているということです。

遠くへ飛ばすキックではなく、インパクトの強いボールを蹴れるかどうかです。
この違いが理解できるでしょうか。

では、どのように強いキックが体現できるのか。
それは、身体全体のパワーを、インパクト強くボールにぶつけることで体現できます。

そのためには、溜め込んだ力を、踏ん張る足から蹴り足に体重移動させることで可能になります。
タイミングやバランス力やインパクトの際のバネなども必要になりますが、基本的にこの体重移動が無いと強いキックが体現できません。

これは非常にアンバランスな動作なのです。
ほとんどの幼少期の子供は、踏ん張る足に体重を残したままボールを蹴ります。これは安定した状態でないとボールが蹴れないからです。

しかし、この体重を移動させて、同時にインパクトの強いキックが1つ目の才能に深く関わりがあります。

幼少期のキック力というのは、身体の体重移動を難なく行え、さらにその態勢でも力を発揮し、さらに安定もしているということを表します。

この動作が第一の才能になり、我々のいう「多軸の動き」です。

安定することにより力を発揮する中心軸

多軸を語る前に、まずは一般的な状態とは何かをお話しします。

人間がバランスをとって日々を暮らすために、頭からお尻に抜ける、身体の中心を通る一本の軸がなければいけません。この軸があることで安定した状態で立ってられます。これが一般的な状態、つまり中心軸です。

ヤジロベーを思い描いてください。軸が真ん中にあるため、安定して立っています。そして、一度バランスを崩すと、すぐに中心の状態に戻る動きをとります。これは、軸が中心にあるため、アンバランスな状態で保つことができないためです。

これが人間だとどうなるのか。横からの圧力がかかるとバランスを崩して倒れてしまいます。これは中心軸が傾くからです。

中心軸は普段は安定しているが、バランスが崩れると脆いです。

不安定な状態でこそ発揮する多軸

では、多軸とは何か。

身体の中心にある軸を、左右にずらせる能力を意味します。具体的にずらす位置とは、左右の股関節上の位置に当たります。

地面から垂直に伸びたラインが、左右の股関節の上を通り天に抜けるイメージです。この2本のラインが軸になりうるのです。これにより、バランスを崩しても軸を平行に移動させることで、不安定な状態の中でも安定することが可能になります。これが多軸です。

前述した強いキックの状態とは、一方の軸から他方へ軸を移行させる動きになります。このようなアンバランスな状態だからこそ、強いキックを可能にしているのです。

多軸の必要性

なぜ多軸が必要なのか。

それはサッカーというスポーツの特異性にあります。
ボールを扱うとはどういうことか。片足でボールを扱いながら、パフォーマンスを発揮することを求められます。それは、不安定な状態で安定しなければならないことを意味します。サッカーとは不安定なスポーツなのです。

しかし、ほとんどの子供は、バランスを崩すとすぐに中心軸に戻るヤジロベー状態のままサッカーをプレーしているのです。

安定した状態で不安定なスポーツをしているため力が発揮できていないのです。

何かを持ち上げたり、パワーを発揮するようなスポーツは中心軸がしっかりしなければ強くなりません。しかし、サッカーは違います。中心軸以外の軸を駆使しなければ良いパフォーマンスは出せないのです。

テクニックという甘い罠

日本では、「個を伸ばす」という合言葉が蔓延してます。その個とは、ボールを” いかに容易に素早く “扱えるかというものです。

素早いタッチやテクニックやフェイントなど。しかし、これらは身体が安定した状態でボールを扱うテクニックなのです。そう中心軸です。

これは、身体の軸が安定した状態だからこそ素早いタッチや両足を駆使した技が可能になります。理解できるでしょうか。言い換えれば、テクニックの練習とは、中心軸を固定させるために行なっていると言っても過言ではありません。

サッカー大国における個

テクニックという甘美な言葉は、あのサッカー大国ブラジルを連想させます。

優秀な選手をたくさん思い浮かべるでしょう。しかし、仮に中心軸によるテクニックを、ブラジルという土壌でプレーしようなら、何も体現できずに終わるでしょう。テクニックを体現する前提がブラジルと日本では大きく違うのです。

ブラジルの厳しい環境下でのテクニックとは、身体を安定させた小手先の技術では決してありません。では、一体どのようなものでしょうか。

厳しい環境下で発揮するテクニックとは、身体全体を使った大きなプレーで無くして成立しません。
要するに、中心軸ではなく、多軸を駆使してプレーすることです。

多軸の恩恵

多軸によりプレーの幅が大きくなります。軸が移動しても安定するため大きく動けるのです。左右の軸をどんどん移動させて身体を動かします。例えるなら竹馬です。

一方、中心軸でサッカーをするとは、真ん中の軸を固定させた状態で活動するためプレーの幅が小さくなります。これは、ひと昔に流行った、ホッピングという子供のおもちゃに似ています。進むためには、力が一度上に向かわなくてはいけないため、その分がロスになり、推進力が小さくなります。

中心軸のテクニックとは、力が上に抜けた状態でサッカーをしているということになります。

ボールと軸の関係性

サッカーは、軸をどんどん移動させて大きく身体を動かさなくてはいけません。

ドリブルに関していうと、左右の軸を交互に移動させながら、飛ぶように大きくドリブルします。これは、ボールに対して軸を寄せていくイメージです。その姿は宙に浮いているような印象を与えます。

一方、中心軸でのドリブルは、軸からボールが離れることは許しません。中心軸でサッカーをするため、動きが小さくなります。これは、軸に対してボールを合わせるプレーです。

大きなプレーや推進力とは前者のことを言います。日本の子供のほとんどのプレーヤーが後者です。

身体の動作方法が根本的に違う

過去に2度、ドイツのバイエルンミュンヘンの、ジュニア世代の視察に行きましたが、その時にも身体の使い方に関して同じく思ったことがあります。

日本の子供の動きは小さくて素早いが、ドイツの子供の動きは大きくてゆったりなのです。これは、先ほど述べた軸に関わるところだと思っています。日本の子供は、安定した状態でプレーしているため、四肢の動きは素早いが、力が上に抜けるためにプレーの幅が小さい。一方、ドイツの子供は、素早さはないが、ゆったりと大きく動きます。これは、軸を移動させて身体を大きく使っているからだと思っています。

見ていて感じたのは、まだ身体をうまく使いこなせていないため動きが鈍いですが、この状態で育てていくことが、将来大きな動作の中で素早さも習得することに繋がると思っています。

雨の日のサッカー

昔からよく、日本人選手は雨の日にはよく滑ってこけるが、海外の選手は全く滑らないと言われてきました。そして、それが足腰の強さの違いだと言われてましたが、実はこれは的外れなのです。

実はその違いとは、中心軸か多軸かの違いなのです。

中心軸とは、地面に根を下ろしてプレーしているため、地面が滑る状態ではいくら踏ん張っても身体を保つことなどできません。なぜなら滑るとは、中心軸が傾くことを意味するので、そのまま崩れてしまうからです。

一方、多軸の選手は軸を入れ替えているので、着地した足が軸になるために常に安定します。そう、滑ってこけることに足腰の強さは関係ないのです。

これは、アイススケートをイメージしたらわかりやすいと思います。身体を保つために必要なことは、片足でバランスを取れるかどうかなのです。これは逆説的に言えば、海外の選手は多軸で日本人は中心軸の傾向であることがわかります。

幼少期で行うこと

このように、サッカーは誰もがプレーすることができますが、それぞれ身体の使い方が全然違うということです。

私は、技術やテクニックなどではなく、この動作そのものに、上達のポイントがあると確信しています。幼少期で行わなければいけないこととは、ボールを使った身体全体で動ける身体づくりをすることにあります。

それが、第一の才能である多軸の動きなのです。

相手を射抜く

では、話の冒頭でお話ししたクリンスマンの動きですが、あれは何なのか。

これが多軸の動きです。自身の中心にある軸を、抜き去る方向とは逆方向の軸に移動させて、また抜き去る方向の軸に移動させる。これを一瞬で行います。

この軸移動の動作により相手を抜いています。この動きは反動を利用しています。

その際には、身体の推進力となるベクトルは、お尻の辺りからまっすぐに出力しなければいけません。
少し理解しづらいかもしれません。

この動作でもって、一瞬で大きく動き、さらに力が純粋に進行方向に進むことを可能にするのです。弓を引いて解き放つイメージに近いです。まさに、射抜くのです。これは、筋力ではなく体重移動の反動で可能になります。

クリンスマンはこの動作により、一瞬でDFを抜いていたのです。これがコアで抜いた印象に繋がっていたのです。

相手に読まれていても抜く

体重移動が完璧で、さらに徹底した訓練により、DFに読まれていてもその方向に抜くことができると確信しています。

基本的には、フェイントなどは幼少期の子供に教えない方が良いです。なぜなら、軸の移動を必要としなくなるからです。フェイントとは、中心軸の小手先だけのテクニックになりがちなのです。

フェイントで相手を抜いたとしても、それは相対的に相手の力量が弱いか、または、抜いたとしても身体の推進力のベクトルが、純粋にまっすぐ出力されていない場合が多いので、その後のプレーが途切れたり、ボールと身体が離れてしまったりする可能性があります(推進力が弱い)。

フェイントという武器を得ることで、身体の使い方を身につけることがなくなるのです。まずは、洗練させるべきは身体の使い方なのです。身体の使い方を叩き込んだ後にフェイントを教えることが必要になります。

第2の才能の記事は以下からご覧ください。

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